「わかっているんです。やればいいって。でも、どうしてもできなくて」
そう言って私のもとに来られたのは、40代の会社員、Nさんだった。英語学習もしたい。転職も考えている。副業にも興味がある。頭の中には、やりたいことがいくつもあるのに、何年も前に進めないまま時間だけが過ぎていた。
「行動さえすれば変わるってことは、わかっているんです。でも、なぜか動けないんです」
この言葉を口にする人はとても多い。
痩せたいのにダイエットが続かない。早起きしたいのに布団から出られない。新しい仕事に挑戦したいのに、ずっと準備だけで終わってしまう。変わりたい気持ちはある。なのに動けない。そういうとき、人はつい「自分は意志が弱いんだ」と考えてしまう。
けれど、私はそうは思わない。動けないのには、動けないなりの理由がある。むしろ理由もなく止まっている人の方が少ない。だから大切なのは、自分を責めることではなく、「何がブレーキになっているのか」を見つけることだ。
Nさんと話をしていると、最初に見えてきたのは、「できない」の正体だった。多くの場合、人は「できない」と言いながら、実際には「やらない」を選んでいる。もちろん、それは怠けているという意味ではない。心のどこかで、やらない方が安全だと判断しているのだ。
たとえば英語学習が続かない人は、英語が嫌いなのではない。英語を始めた先にあるしんどさや、途中で挫折するかもしれない不安の方を強く感じている。転職したいと言いながら動けない人も、本当は転職したくないのではなく、転職した先で失敗する痛みを避けたいだけだったりする。
Nさんにも、その感覚があった。話を丁寧にたどっていくと、学生時代に新しい企画に挑戦して大きく失敗し、人前で恥をかいた経験が強く残っていた。「またあんな思いをするくらいなら、今のままでいい」と、無意識がずっと言い続けていたのだろう。表面では前に進みたいと思っていても、心の奥では現状維持の方が安全だと判断していた。
そこで私は、Nさんにある問いを投げかけた。
「もし何も変えないまま10年経ったら、どうなっていますか?」
Nさんはすぐには答えなかった。しばらく考えてから、口を開いた。
「同じ部署で、同じ仕事をしていると思います。給料は少し増えているかもしれない。でも、たぶん気持ちはずっと重いままです。毎朝、会社に行くのがつらくなっている。。。」
私は続けて尋ねた。
「では、もし怖くても一歩踏み出して、やりたい方向に進めたらどうでしょう」
今度のNさんの声は、少しだけ明るかった。
「やりがいのある仕事ができているかもしれません。収入も上がるかもしれない。何より、子どもに挑戦してもいいんだって見せられる気がします」
できない原因1:メリットとデメリットが分からない
人は、やらない未来の痛みと、やった未来の喜びをはっきり感じたときに、ようやく本気で揺さぶられる。
多くの人が動けないのは、メリットもデメリットも、まだぼんやりしているからだ。ぼんやりした未来では、人は本気になれない。だからまず必要なのは、「やらなかった場合の痛み」と「やった場合の喜び」を、逃げずに直視することだ。
できない原因2:やり方が分からない
ただ、理由はそれだけではなかった。Nさんの話を聞いていると、もう一つ大きな壁が見えてきた。それは、やり方がわからないことへの恐れだった。
副業に興味はある。でも何から始めればいいのかがわからない。調べても情報が多すぎて、むしろ混乱する。すると脳は「これは危険だ」と判断し、動きを止める。
人は、知らないことに本能的な恐怖を感じる。バイクの運転方法を知らない人がバイクにまたがるのを怖いと感じるのと同じだ。やる気がないのではない。やり方がわからないから怖いのだ。
Nさんも副業に対して、まさにその状態だった。「自分には無理だと思っていました」と言っていたが、詳しく聞くと、無理だと思っていたのではなく、何をどう始めたらいいか分からないまま、ただ漠然と怖がっていただけだった。
そこで私は、できていないことを感情抜きで並べてもらった。英語学習。転職活動。副業の情報発信。そこから、「本当はやりたいのに、やり方が曖昧なもの」を分けていった。そうすると、曖昧さが恐怖の正体だったことがはっきりしてくる。
さらに私はNさんに、副業をすでに始めている人が集まる場に足を運んでもらった。特別な才能がある人ばかりだと思っていた世界に、実際にはごく普通の会社員や主婦や個人事業主がいる。その現実を見たとき、Nさんは驚いたように言った。
「もっとすごい人たちの世界だと思っていました。でも、案外みんな普通なんですね」
この「案外普通なんだ」という感覚は大きい。恐怖は、正体が見えると急に小さくなるからだ。
できない原因3:やらない
そして、さらによくあるのが、そもそも始めていないという問題だ。これは単純に見えて、実はかなり大きい。人は始める前が一番重い。本棚の整理も、筋トレも、仕事の資料づくりも、始めるまでが長い。けれど、いざ手をつけると不思議なくらい進むことがある。
Nさんに英語学習の話をしたとき、私はこんなふうに聞いた。
「英語のアプリは入れていますか?」
「……いえ、まだです」
「では今日、帰り道に一つだけインストールしてください。勉強しなくていいです。入れるだけでいいです」
翌週、Nさんは少し照れたように笑った。
「アプリを入れたら、なぜか毎日開くようになりました」
これが、始めることの力だ。人は一度でも動くと、「あれ、できるかもしれない」という感覚を持ち始める。反対に、一歩も動かなければ、頭の中で難しさだけが膨らんでいく。大きな目標を見つめ続けるより、小さな一歩に分解して動く方が、はるかに現実は変わる。
できない原因4:やりたいことをするには我慢が必要だと信じてる
けれど、それでも動けない人がいる。その人たちの中には、「やりたいことをするには、先に我慢が必要だ」という思い込みを抱えている人が少なくない。子どもの頃から、宿題をしてから遊びなさい、片付けをしてからおやつです、という流れを何度も経験すると、「好きなことは後回しにするものだ」という感覚が染みついていく。
その結果、大人になってからも、やりたいことに向かおうとすると心のどこかでブレーキがかかる。楽しそうなことほど、簡単にやってはいけない気がする。自分の望みを優先することに、うっすら罪悪感が混ざる。
Nさんもそうだった。「好きなことを仕事にしたいなんて、甘えなんじゃないか」と、どこかで思っていた。「まずは今の仕事を完璧にやってから」「家族のためにもっと我慢してから」と条件を積み上げていた。けれど、その条件は満たしても満たしても終わらない。だから、いつまで経っても自分の人生が始まらない。
そういうときは、すぐに考え方を変えようとしなくていい。ただ、「自分はそう思い込んでいたんだな」と気づくことが先だ。やりたいことをやるには、苦しまなければならない。好きなことを仕事にするのはわがままだ。そういった刷り込みに気づくだけで、心の固さは少しずつゆるんでいく。
できない原因5:やりたいことをしたときのリスクが不明確
また、動けない人の中には、行動した先のリスクを漠然と怖がっている人も多い。転職して失敗したら終わりだ。副業を始めてうまくいかなかったら恥ずかしい。発信して反応が悪かったら立ち直れない。けれど、こうした恐怖の多くは、具体的に言葉にしてみると意外なほど小さい。
Nさんも、転職についてずっと「失敗したら終わりだ」と言っていた。そこで私は聞いた。
「具体的に、何がどう終わるんですか?」
Nさんは考え込んだあと、少し拍子抜けしたように答えた。
「……また転職活動をするだけかもしれません。最悪、別の会社を探せばいいだけですよね」
そうなのだ。暗い部屋の中では何でも怖く見えるが、電気をつけてみると、そこにいたと思っていたお化けの正体がただの服だったりする。恐怖も同じだ。輪郭が見えないから膨らむ。言葉にした瞬間、小さくなる。
しかも本当に考えるべきなのは、「やった場合のリスク」だけではない。「やらなかった場合のリスク」もある。何年も口だけで終わり、自分の可能性に触れないまま歳を重ねていくこと。その方が、実はよほど大きな損失かもしれない。
できない原因6:自分の命は永遠につづくと思っている
そして、ここで避けて通れない話がある。人はどこかで、自分の人生がまだまだ続く前提で生きている。だから「いつかやろう」が簡単に出てくる。来年になったら。子どもが大きくなったら。仕事が落ち着いたら。お金がもう少し貯まったら。
けれど、人生はそんなに約束されたものではない。いつ何が起きるかは、誰にもわからない。
私はときどき、あえて厳しい問いを使うことがある。
「もし1年後に人生が終わるとしたら、今のままでいたいですか?」
Nさんは、しばらく何も言わなかった。けれど、その沈黙のあとで出てきた言葉は、とても本音だった。
「今の仕事をそのまま続けてはいないと思います。もっと家族と一緒に過ごす時間を増やして、本当はやってみたかったことに挑戦していると思います」
その瞬間、Nさんの目つきが少し変わった。人は死を意識すると、優先順位が変わる。本当に大切なものが浮かび上がる。「そのうちやる」がどれほど無責任な言葉だったかに気づく。今日という日は、思っているほど無限ではないのだ。
できない原因7:それでもなんかできないんです・・
それでもなお、どうしても心の中で引っ張り合いが起きる人もいる。やりたい自分と、止める自分がいる。前に進みたいのに、同時に進みたくない。そんな矛盾を抱えている人は少なくない。
その場合、「動けない自分を消そう」としない方がいい。むしろ、その自分にも役割があると認めた方が前に進みやすい。やりたい自分は、未来へ進もうとしている。止める自分は、傷つかないように守ろうとしている。方向は違って見えても、どちらも自分を守ろうとしている点では同じだ。
だから私は、そういう人には、自分の中の二つの気持ちを無理に戦わせないように勧めている。やりたい自分の声も、怖がっている自分の声も、どちらもちゃんと聞く。どちらかを悪者にしない。その上で、「怖いけれど、それでも一歩だけ進もう」と決める。人は、自分の中の葛藤を否定するより、理解したときの方がずっと動きやすくなる。
Nさんは、その後少しずつ動き始めた。いきなり人生が変わったわけではない。でも、止まっていた人が動き出したときの変化は、外から見る以上に大きい。三ヶ月後には転職活動を始め、半年後には新しい職場に移った。
そのときNさんが言った言葉が、今でも印象に残っている。
「自分が怠けていたんじゃなかったって分かったとき、少し気持ちが楽になりました。なぜ動けなかったのかが見えたら、不思議と動けるようになってきたんです」
行動できない人は、意志が弱いのではない。まず、未来の痛みと喜びが曖昧なのかもしれない。やり方が見えていないのかもしれない。最初の一歩が大きすぎるのかもしれない。好きなことを後回しにする思い込みがあるのかもしれない。リスクを大きく見積もりすぎているのかもしれない。人生が永遠に続く前提で先延ばししているのかもしれない。そして、自分の中の葛藤をうまく扱えていないのかもしれない。
だから大切なのは、「なんで自分はこんなにダメなんだ」と責めることではない。「今、自分を止めているのはどの理由だろう」と静かに見つめることだ。
原因が見えれば、対処はできる。
正体のわからない不安は強い。
けれど、正体が見えた不安は、もう前ほどあなたを支配できない。
もし今、行動したいのに動けないことがあるなら、今日いきなり人生を変えようとしなくていい。まずは、自分を止めている理由を一つ見つけることから始めてほしい。そこが見えた瞬間、止まっていた人生は少しずつ動き始める。


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